あと10cmで歴史が変わっていた@都市対抗西関東二次予選



横浜スタジアムで行われた、都市対抗二次予選の表彰式の写真を最初に載せる。表彰されているのが第一代表の東芝と、第二代表の三菱重工横浜。例年通りの絵。無風と呼ばれ続けた西関東の締めくくりの絵だ。
でも、今年は予定調和はなかった。
興奮してしまってメモがおろそかになったりしたので、記憶があいまいな部分があるのでご了承ください。


横浜金港クラブ 3 - 4x 三菱重工横浜
6/1 横浜スタジアム 観衆約500人(目測 かなりいいかげん)



試合開始30分くらい前から、ビールの売り子さんがゾロゾロスタンドに入ってきた。でも、今日は気温もわりと高いとはいえ、売り上げは悪いだろう。西関東二次予選の代表決定戦だが、応援団は来てない。スタンドには4ケタに達してないだろうという観客。なぜなら、企業同士の試合じゃないからだ。
前夜の第一代表決定戦は仕事で見にいけなかったが、スコア表を見るかぎり見ている方まで胃が痛くなるような攻防だったようだ。そんな試合を見たあとでは「明日はクラブ相手だからいいや」という気持ちになってもおかしくない。
重工は野村亮介(静清高)という高卒2年目のピッチャー、金港は菊沢竜佑(立教大)と二人とも初めて見る。僕はこの菊沢という選手を新聞記事で見て興味を持った。斎藤佑樹と同世代で六大学で勝ち星をあげるも、肩とひじの故障で企業チーム入りを断念したと書いてあった。投げるのは5年ぶりだという。
このふたり、マウンド上はまるで対照的。野村の表情が硬かったのに対し、菊沢はなんでこんなに笑顔なんだろうってくらい白い歯を見せながら投げる。野村はクラブ相手とはいえ、決定戦の先発で硬くなっていたのかもしれない。1回表、内野安打→バント→3番平野のセンター前→2死後右中間タイムリーでいきなり1点を失う。金港は幸先が良い出だし。
しかしその裏、重工は四球で出たランナーをボークもあって三塁に進め、センター前タイムリーであっさり同点。だが1点止まり。

硬い野村と笑顔の菊沢、両投手ともよく、流れがどちらにも傾かない。重工は菊沢が全く打てず、3回まで1安打と封じられたまま。マウンドさばきを見ていると堂々としてて、なるほど六大学で勝ち星をとっただけはあると思った(ちなみに、明治相手の時に岩田慎司(中日)に投げ勝ったという記録が残っている)。直球は最速143km、多くは138kmくらいとそこそこ速いし、大崩れしそうな感じがない。ただ、まだ三塁側スタンドは「まあいつか逆転するでしょ」という空気が支配してたように見えた。ちなみに、僕もそうだった。
気になったのは、重工のベンチ。声は出てるが、なんというか声に「シャープさ」がない気がした。攻撃前に円陣らしきものもあまり組まない。金港のベンチがとにかく明るいのと対照的だ。クラブ相手だからゆるくなってるのか、それとも、前夜の重苦しい雰囲気をひきずってるのか。
序盤を過ぎても流れは傾かない。盗塁を失敗したり、菊沢の速球に三振を食らったり、とうとう5回ごろ、「チンタラやってんじぇねぇよ!」というヤジが飛び出した。

6回表に動いた。金港は先頭打者がセーフティバントで崩しにかかる。次の平野がライト前に落とし無死1、2塁とし、4番の田中大貴東海大)がレフト前タイムリーを放ち2-1ととうとう勝ち越し、スタンドは驚きの声があがる。連打を浴びた野村に松下監督が歩み寄るが、続投させる。本気か?それはちょっと・・
しかし金港は走塁がまずく、本塁で憤死するなど1点のみだった。
7回表に重工は野村をあきらめ、左腕の福地元春(九州共立大)を出す。いきなり146kmを出し速いと思ったが、それでも金港は食らいつき8安打目を放つ。流れを渡してたまるかという明確な意思を感じる。
7回裏に菊沢は先頭に四球を出す。ちょっとバラついてきて、疲れたかな・・と思っていたら重工の頓所裕一(日本文理高)がレフト線タイムリーを放ち、2-2の同点。このころようやく三塁側スタンドが目を覚まし、声援を送りはじめた。クラブチーム相手だから、甘く見ていたか。スタンドの観客だけでなく、選手も監督も、大会関係者も新聞記者も・・・その中には僕も含まれる。同点になったことで「大健闘だけど、終盤に逆転されちゃうだろう」と。
僕の見方は甘かった。金港はそれでは終わらなかったのだ。
8回裏、大好投の菊沢から大橋洋介(横浜市立大)にスイッチする。この右腕は左足の振り方にとても特徴があり、スピードはあまりなさそうだか横に動く変化球がよく制球されていて、球審の手がよく上がる。菊沢とは全然タイプが違い、重工は流れをつかめなかった。
9回表、金港の攻撃。
先頭の庄野太朗(神奈川工業高)、右中間を破る三塁打を放つ。捕手の齊藤佳弘(神奈川工科大)が連打も三塁は突っ込めない!福地、球がバラつき始める。スタンドが異様な雰囲気になってきた。
代打に澤井純一(埼玉栄高‐JR東日本)が出て僕は興奮するもセカンドゴロ。落ち着かなくなってメモもうまく取れない。
しかし、次の市川達也(東海大)がレフト前にタイムリー!3-2!3たび突き放すとは。僕は目の前の光景が信じられなかった。僕のまわりの人達も同じだったはずだ。こんなことが本当にあるのか?


運命の9回裏。
先頭打者を(たしか)ファーストゴロ(だったと思う)に仕留めたとき、僕は試合が始まって初めて「勝てる」と思った。神奈川の社会人野球で、クラブチームが企業に勝つのを見られる。夢じゃない。
四球だったかで1人ランナーを出すも、2死までいった。バッターは捕手の前田勇気(立教大)。後で知ったことだが、菊沢の同期生だった。
追い込んだ。どう追い込んだか覚えてない。カウント2-2。次の球に前田はバットを出した。
僕はネット裏で見ていた。バットは回っていなかったと思う。
あと10cmほど、バットが前に出てたら、試合は終わっていたと思う。
カウント2-3。次の球はレフトに飛んだ。僕は一瞬、打ち取ったと思った。が、球は伸びてレフトのグラブは届かなかった。三塁側スタンドもベンチも、ものすごい大声援。企業チームを本気にさせたのだ。
勝ちはなくなったかもしれない。でも本気にさせたのだ。

もっとも9回裏は逆転を許さなかったうえ、9回から引っ張り出された鶴田祥平(日体大)が四球を連発し10回表に満塁まで行くが、金港はとうとう得点できず。
10回裏、四球から送りバント、そして最後はレフト線タイムリーを放たれ、サヨナラで重工が勝った。


一番上に載せた表彰式の時に個人賞があり、敢闘賞に金港の菊沢が選ばれた。重工のスタンドからも大拍手が起きていた。7回3安打2失点、拍手が沸いたのも自然なことだった。


表彰式が終わって球場を出るとき、興奮しすぎたせいか、頭がボーっとなってしまった。他にもいろいろ思ったことはあるのだが、長くなったのでまた今度。
金港クラブの皆さん、僕が見た今季のベストゲームです。ありがとうございます。