津波に飲まれた野球場を訪ねる@JABAスポニチ福島支局杯


2011年の震災は、野球にも大きな影響を与えた。
よく知られているのは日本製紙石巻野球部が最も影響をこうむったことだ。野球場で言えば石巻市民球場自衛隊居留地に使われ、その後MLBの援助により復活したことが記憶に新しい。
僕が訪れたここもまた、今年復活をとげた野球場である。


福島ホープスの試合を見た僕は、翌日は福島県の山に登り、その翌日に宮城県南部のボランティア活動場所に行くことになっていた。
山に登った後の宿でネットを見ていて、このあたりで今野球なんかやってなかったよな、と一応確認のためにうろうろしていた。するとJABAの新着情報に「福島」とつく大会がいまやってるではないか。場所は、「みちのく鹿島球場」。この野球場のことを調べるうちに興味が沸いた。
ちょっと離れてるが、早起きすれば行けなくもない。ボランティアは昼から。ただ・・朝寝坊もしたかった。
しかし、ここまで来て見に行かないなんて、「マイナー野球を愛する」の名がすたる(?)んじゃないのか・・
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気が付いたら早起きしてた(笑)
なんだろう、この使命感のような何か。誰も注目しそうにない野球も世の中に紹介したい、そんな使命感のような何か。



福島郊外から早朝に車を走らせる。途中、伊達市というところで「富士通アイソテック」の工場前を通った。クラブ選手権で西武ドームにも来たチームだが、ぐるっとまわってみてもグラウンドらしきものは見当たらなかった。
辺鄙な国道115号をひたすら西へ走り、1時間ちょっとして国道6号へぶつかり、右折して南相馬市のほうへ。
時々、「津波浸水地帯」の看板を見かけた。場所によってもことなるが、ここらは海岸から3〜4kmくらいのところだ。
ナビに沿って左に曲がると、スコアボードらしきものが見えてきた。
・・まわり、何もないけど。

スコアボードの上に日の丸とJABAの旗がなびく。ここが「第7回JABAスポニチ福島支局杯選抜大会」が行われている、みちのく鹿島球場だ。

車を止めスタンドに入ってみる。見に来ている人などいるのだろうか、と思ったら、ちゃんといる。こんなと言っては失礼だが、都会から遠く離れた、海から遠くないところにポツンと建った野球場にも、野球があれば見に来る人はいる。
自分を含めて十数人。ほとんどチーム関係者か、選手の家族か。一人で見にきてるおじさんもいるが、横浜から見に来てる人など、皆無だろう。自分を除いては。
空は晴れ。

行われていたのは、二本松クラブとオールいわきクラブの試合。オールいわきは昨年クラブ選手権に出場した。僕も大和高田クラブとの試合をちょっとだけ見ている。東北でもそこそこ強いチームだ。
見始めてまもなく、ファウルの判定を巡って揉める。判定がひっくり返ると、相手チームがまた抗議する。
幸せだ。野球がある日常。
野球場が復活するまで、ファウルを巡って揉めることなどできやしなかったはずだ。

このだだっ広い草むらの向こうに海がある。あの震災の日、津波がこの野球場を飲み込んだ。野球場は地域の避難場所に指定されていたはずなのに、スタンドにいた人達は助かったが、グラウンドにいた人はがれきに飲まれ、後日遺体となって発見されたという。
「みちのく鹿島球場」で画像検索してみると、信じられない画像が出てくる。この日の青空の下の光景からは想像ができない。



5回に二本松クラブは2点をあげ4-2と逆転に成功する。が、その裏にいわきが相手守備の乱れもあり5点を奪い一気に主導権を握る。二本松は守備で残念なプレーが続いてしまう。
福島はクラブチームが多い。ただ正直なところ、全国大会における福島県勢の成績はチーム数の割には芳しくない。それでもオールいわきは全身の「オール常交」時代に一度全国優勝を遂げている。ちなみのこのオール常交、史上初めて日本選手権に出場したクラブチームだったそうだ(1980年)



一塁側の外を見ると、これも草むらが広がっている。果たしてここは、田んぼだったのか、住宅もあったのか、それとも元から草地だったのか。以前の姿を見たことのない自分はわからない。
こんな空間のなかに佇む野球場が復活し、7月には楽天2軍の試合も開かれた。その時は1800人の観衆が集まったという。
この日の試合は、復活後初のアマチュア野球の大会だった。その試合を見た十数人の中に僕はいる。

中盤から登板したオールいわきのピッチャーは、聞けば双葉高校の出身だという。体格も良いし、時々制球が乱れるが球もそこそこ速い。知っている選手がひとりもいない試合でも、時々おやっと興味をひかれる選手がいたりして、見ていればやはり面白い。
スタンドに途中から見にくる人もいて、先にいた人と挨拶を交わしている。福島なまりが混じる。この方々は震災の時は大丈夫だったのだろうか。そんなことを思ってしまう。
プレーする選手だけではない。おだやかな空の下、スタンドで野球を見ていられるということは幸せだ。



オールいわきの勢いは止まらない。二本松クラブの守備のほころびも重なり、7回裏に4点加えて12-5でコールドゲームとなった。序盤はトントンに進めていたのだが、途中から地力の差が出てしまったような感じだった。


今度こそ目的地へ急がなくてはいけない。僕はおそらくこの球場に再び来ることはないだろう。思わずもう一度球場を振り返ってしまった。
もし次来ることがあったとしたら、球場まわりの風景はどうなっているんだろうか。