連敗記録など気にしない@東京六大学 早大x東大

早大 11 - 0 東大
5/3 明治神宮野球場 観衆11,000人

この日にやってくるメディアの記者にとっては、ラクチンな仕事だろう。
東大が負ければ「東大71連敗の新記録」で1本記事が書けるし、もし勝てば「東大連敗記録目前で連敗ストップ!」で記事になる。どっちにしても1本記事が書けるのだ。ネタを探すまでもあるまい。だからこの日のグラウンドには結構な数のレンズの砲列があった。

僕は連敗記録がかかる試合に合わせて行ったわけではない。今年はすでに東大戦には1度行っている。初戦の明治戦だったが、東大の攻撃があまりに見るものがなかったので書けることがなかった。それについで2戦目だ。
早大はエースの有原航平。ドラフト1位候補が相手。ふつうに考えれば勝つのは難しい相手だ。そして連敗記録がかかっているなか、メディアの注目もどうせ集まるだろう。こういう圧倒的不利のなか、ひょっとしたらという気持ちも実はあった。前回の勝利はドラ1候補の齋藤佑樹が相手。当時と同じ早稲田、同じドラ1候補。そういう因縁もあったし、もしこういう下地のある中で東大が勝利をおさめたら・・それはもう歴史の一部になる。その歴史を見てみたい。そう思ってやってきた。

スタンドの中は、連休中だがそれほど多くいるわけではない。いつもと同じくらい。第一試合の明治x法政戦を見終えて帰る客とも結構すれ違った。
東大のエース辰亥と有原の投げ合いというのも楽しみだったのだが、そんな僕の思惑もいきなり出鼻をくじかれる。1回表に早稲田の4番武藤にいきなりレフトに2ラン。いつも通り辰亥は丁寧に投げていたとは思ったが、ちょっと打ちごろの高さに来たところをジャストミートされる。

有原はというと、初回からそれほど無双というわけでもなく、1、2回と内野安打を打たれ東大応援席が沸く。僕は、絶好調の有原だったらノーヒッターをやられてもおかしくないと思っていたが、きょうはほんの少しだけ期待を持たせてくれる立ち上がり。2回とも三塁までランナーを進めるが、三振で凡退。
東大が勝つとしたら、先発投手が7回くらいまで何とか試合を作り、次第に焦ってくる相手から少ないチャンスをものにしてロースコア勝負に持ち込み、継投でなんとかしのぎ切る。これが最も近い(ていうか現状ではそれしかない)と思っているのだが、辰亥は安定していれば7回くらいまで2点くらいで抑えられることがある。
でも今日は、辰亥が不安定だったというより、早稲田の打線がよくボールを見えていた気がする。こういう投手はじっくりと球を見極められるときつい。四球が多くなり、もともとゆっくりなテンポがさらに遅くなって、球数も増える。そうなると早い回で降ろさざるを得ない。
悲しいかな今年の東大は中継ぎ以降が良くない。去年は出田興史(早大本庄)という1年生が出てきていたがなぜか今年は出てこない。エースがマウンドを降りると一気に形勢は悪くなってしまう。
2番手に毛利拓樹(横浜翠嵐 この高校、横浜に住んでるからわかるが、トップの進学校である)が出てきたが、直球は辰亥より速いものの、フォームを見たら「タイミング合わせやすそうだなぁ」と感じるオーソドックスなフォーム。心配したとおり中村奨吾(天理)にいきなりソロを浴びる。その後も合わされて2回で4失点。

早稲田の有原は、3回以降はいつも通りの投球を見せつけ、6回でマウンドを降りた。右打者へのインコースを見たら、東大でなくても打つのは厳しいと感じた。現実は甘くない。
7回から登板した右アンダースローの吉野がボール先行で安定せず、うまくいっていたら東大はここが攻めどきだったと思うのだが、打線は全く元気を失ったまま。中盤で点差をつけられるとどうしてもうまくいかない。点差がついてしまうと、相手も恐さを感じないし、焦りも感じない。

この写真は終盤のスコアボードだが、ご覧のとおり早稲田のメンバーが大部分交代している。後半になると次々に控え選手に代わってしまっているのだ。3番に道端とあるが、あの智弁和歌山の道端俊輔だ。5季連続甲子園出場の選手が控えでベンチにいる、そんなところを相手に東大はリーグ戦を戦っているのか。
11-0で試合が終わり、ベンチ前に整列すると、さっきのレンズの砲列を持った集団がいっせいにカメラ席を飛び出し観客に礼をするところを写しはじめた。なんだかイヤな気持ちになる。翌朝の新聞は、僕が想像していたとおりのカットが載っていた。


「もう東大を外して五大学にしろ」という声が(ネット上で)上がっている。もっともらしく聞こえるのだが、僕はどうしても賛同しかねる。うまい例えが見つからないが、例えば「どうせ実力的にクラブチームは出られないんだし、都市対抗は参加資格を企業だけにしよう」なんて声がもし出たらやっぱり賛同しかねる。それと同じだ。
たぶん僕はドラマを期待しているんだと思う。条件的に厳しい(時間的にも、人材的にも)野球チームが強いところに勝つ。その過程にはドラマを感じる。もっとベタな言い方をすれば、野球は強いところが勝つとは限らない。それを実際に確認してみたいんだと思う。

でも、現状ではドラマを起こすにはちょっと差がつきすぎている。かつてNHK大越健介キャスターが現役のとき、チームは4年間で24勝したのだという。それと比べると現役生はふがいない。
もう連敗記録のことはどうでもいい。次の試合を勝つ、ただシンプルにそれだけを求めていけばいいと思う。