ドラフト候補と文化財@東大x京大 定期戦

京大 5 - 1 東大
7/5 東大球場 観衆約400人(目測)

「普段のオープン戦では見たことないくらい混んでる」
twitterにそんな文言が流れてきた。雨の中だというのに、みんなよく知っている。人のことは言えないが。
この日は東大野球部と京都大学野球部の定期戦が東大の本拠地で開かれる。僕は一度も行ったことはない。なぜ行くか。
この日観戦に来る皆はほとんど同じ目的だろう。京都大のドラフト候補・田中英祐投手(白陵高)が関東にやってくるからだ。ネットでもスポーツ紙でも「京大出身プロ選手か」と騒がれている人が来るなら、見に行くしかない。
ただし、僕にはもうひとつ目的があった。

地下鉄の東大前駅を降り、地上に上がって路地に入る。閑静な住宅街と東大農学部に挟まれた道を行くと、横に有名な東大地震研の建物が見え、それをすぎると球場の裏口にたどりつく。空色に塗られた壁が印象的なこれこそ、僕のもうひとつの目的だ。
登録有形文化財 文化庁」の銘板が壁に貼ってある。野球場のスタンドが文化財に指定されているのだ。日本で唯一のものだと聞いた。後でじっくり見てみよう。

そんなに大きくないスタンドには大勢のファンがおり、僕が座ったあとからも人がやってくる。試合開始前にはほぼ満席に近くなった。
この日の先発はその田中と辰亥由崇(高松高)、エース同士のガチンコ勝負だ。他の京大の選手はまったくわからない。メンバー表があったらしいがコピーが残っていなかった。
1回の表に辰亥が無難に凡退させると、田中がマウンドへ。投球練習の最初の球を見た。
「これ、受験勉強して京大に入った選手の球かい?」
投げっぷりの良さ、腕の振り(振りというか、叩く、ような感じ)のはやさ、こりゃ普通に六大学でも先発できると思った。いや「京大の」っていう枕詞を外したとしても投手として魅力があって、見ていてひきこまれそうだ。

「東大の選手はまともにとらえられるのか?」の懸念は当たり、3回までに7三振。速球が速いが、特に右打者の外角の球はキレが凄い。序盤を見て、まさかのノーヒッターもあるかもと思ってしまった。
しかし出来が良いのは辰亥も同じで、丁寧に投げる特徴の良さがよく出ていた。3回まで両軍ともノーヒット。

4回表、京大が1死2塁から初ヒット。2死になったが、5番の森本来希(大手前高)が辰亥の甘めの直球を右中間に流し打って二者が還り2-0と先制する。
逆に東大は5回裏に有井佑人(新田青雲中教)がフルスイングで三塁横を抜くヒット。四球もあって1死1、2塁のチャンスをつくるが、連続三振に終わる。
京大はこの日効率よく攻めるのに成功した。6回表に3安打目を放つと、再び森本がストレートをライトへ放ちさらに2点を追加する。辰亥は悪くなかったのに、森本の2本の安打で4点を取られた。ちょっと惜しい。



途中、スタンドをじっくり見てみる。あの東大安田講堂と同じ設計者が設計したというこのスタンドは1937年建造。当時野球場に屋根があるのは珍しかったという。こういうアーチ型の屋根は他の野球場に見られないもの。もっとも、そのせいで一番上の席はちょっと死角ができてしまうが。

内部のコンクリートはさすがにすごい年季が入っている。

一番上の段は報道関係者がいるような席になっており、どこかわからないがテレビカメラがいた。そのほか、ネット裏に超望遠をつけた一眼レフが並んでいる。京大のドラフト候補が東大と対戦する、というのは記事になりやすいんだろう。


7回表に辰亥から白砂謙介(修道高)へスイッチするが今度は左打者にレフトへタイムリーを打たれ5点目を取られる。京大のタイムリーはこの日すべて球に逆らわずに流し打っていた。おそらく意識を徹底させていたのかもしれない。
「悔しかったら1点取ってみろ」監督さんのゲキが効いたか、東大の4番笠原琢志(甲陽学院)が田中の初球をセンターオーバー2塁打、続く有井は力負けせず強烈なファールを放つ。ここで京大は監督がマウンドへ。かなり長いあいだ話していたが、田中は降板。疲れが見え始めたのかもしれない。そういえば、初回のころに比べて腕の振りが鈍くなっていたような気がした。それと気になったのが、やたらと帽子を振り落とすこと。あれはなぜだろう。

田中から代わった冨田真吾(茨木高)は全くタイプの違った投手で、肩に力が入らない独特の投げ方をするスリークォーター。たしかリーグ戦で勝っていたと記憶する。東大は満塁までいくが併殺崩れの1点どまり。東大の得点はここまで。
京大は守備もしっかりしてたし、関西リーグで今春4勝した実力を見せた感じ。東大は序盤から田中に圧倒されてしまいあまり見せ場が作れなかった。ただ有井の力強いスイングは力負けしておらず、秋に期待が持てるかなと思った。

田中にインタビューする取材陣。NPBが指名したがるかもしれないが、専門を生かせる企業に入って社会人野球をやるというのも面白そうだ。